アリエクでかつて売られた形のない商品──500円Windowsキーと400円Netflixアカウント

いろいろな商品が販売されているAliExpressですが、2020年頃までは物体ではない商品も売られていました。それはライセンスキーです。

現在では考えられない光景ですが、Windows 10のライセンスキーが500円、NetflixやSpotifyのアカウントが400円といった塩梅で、アリエクでは隠しもせず、あけっぴろげに販売されていました。

これらはWindows 10がリリースされた2015年頃から、アリババのコンプライアンスが強化される2020年初頭まで続いてましたが、どのような商品だったのかを探っていきます

かつてのアリエクで『Windows 10』と検索するとライセンスキーがずらっと並びました。中には11のPro版やOfficeのライセンスキーも関連商品として出現して、最高でも1500円程度で販売されていました。商品ページには「Genuine License(正規ライセンス)」「Lifetime Activation(生涯認証)」との記載があって、フィードバックにも「問題なく使えた」「認証成功」といった肯定的なコメントが多く並ぶのです。

では、このライセンスキーをセラーはどのように入手していたのか?以下の3つのルートで調達されていたと予想します。

① OEMキーの流用

PCメーカー(Dell、HP、Lenovoなど)向けに提供された安価なOEMライセンスキーを、単体で転売する手法です。本来は、その販売するPC専用のキーのはずが、当時のWindows認証システムはOEMキーをマザーボードに完全に紐づける仕組みがまだ不完全で、他のPCでも認証が通ってしまうケースがありました。

② ボリュームライセンスの不正転用

企業や教育機関向けの一括ライセンス(ボリュームライセンス)、あるいはWindows7や8のライセンスキーを無料アップグレードしたものを小口で転売する手法です。組織の管理者が不正にキーを流出させているケースや、教育機関向けのライセンスが悪用されているケースが当時はありました。また、Windows10のアップグレードが無料だったので、7や8で不要になったキーを販売する手口もありました。

③ 地域価格差での利ザヤ

途上国向けに安く設定されたライセンスを、高価格地域のユーザー向けに転売する手法です。Microsoftが地域ごとに価格を設定していることを逆手に取ったビジネスモデルが存在しました。

これらライセンスキーを購入すると、数分以内にセラーからアリエクのメッセージに、『Your Windows 10/11 Pro license key is: XXXXX-XXXXX-XXXXX-XXXXX-XXXXX』といったものが届いて、売買は終了となります。

では、このライセンスキーを使用すると何が起こるのかは、以下のようなことになります。

パターン 割合 内容
① 即座に認証成功 約60% 入力後、数秒で「Windows is activated」と表示される最もラッキーなケースです。
ただし、このキーで再インストールした場合、再度認証できる保証はありません。
② 「このキーは使えません」とエラー 約30% 「The product key you entered cannot be used on this version of Windows」などのエラーが表示されるケースです。
セラーに連絡すると、別のキーを再送してくれることが多いです。
③ 認証は成功するが、後に無効化される 約10% 最初は認証されるものの、数週間〜数ヶ月後に「Windows is not activated」と表示されるケースです。
Microsoft側が「不正なキー」として検出し、無効化した可能性があります。

※スマホでは横スクロールで閲覧できるレイアウトです。

※私はこのライセンスキーを買ったことがありませんが、フィードバックのコメントは割とチェックしていました。このライセンスキーを購入した結末は、その声をもとに作りました。

もう一つ、2020年頃まで、アリエクではNetflixやSpotifyのアカウントが400円で販売されていました。商品ページには「1ヶ月保証」「Shared Account(共有アカウント)」といった文言が並び、「格安でプレミアムサービスが使える」として人気を博していました。

これらのアカウントは、以下の4つのルートで調達されていたと推測されます。

① クレジットカード詐欺(Carding)による大量作成

ダークウェブやTelegramなどで盗まれたクレジットカード情報を使い、正規のサブスクアカウントを大量に作成する手法です。カードの正当な所有者がチャージバックを起こすまで、アカウントは正常に機能します。

② ファミリープランの不正分割販売

正規のファミリープランを契約し、そのスロットを別々に販売する手法です。アリエクでの購入者は自分専用のアカウントだと思っているが、実態は1つのプランを共有させられているだけ。

③ 地域価格差の悪用

トルコやアルゼンチンなど、料金が極端に安い地域でアカウントを作成し、高価格地域のユーザーに販売する手法です。

④ フィッシングおよびアカウント乗っ取り

偽のログインページなどでユーザーのIDとパスワードを盗み取り、パスワードを変更して販売する手法です。

これらもWindowsと同様、ログインするEmailアドレスとパスワードが記載されたものがアリエクのメッセージに届くだけで販売は終了です。また、商品ページには「共有アカウントである」「パスワードを変更するな」「有効期限は30日」と必ず書かれていたのも特徴です。

パターン 割合 内容
① 問題なく視聴できる 約50% ログイン後、通常の画面が表示されるケースです。
ただし、同時に視聴できるのは1デバイスのみです。
② ログインできない 約30% パスワードが間違っている、またはアカウントが既に削除されているケースです。
セラーに連絡すると、別のアカウントを再送してくれることがあります。
③ 数日後にログインできなくなる 約20% 最初は使えるものの、数日後に「パスワードが変更されました」と表示されるケースです。
元のオーナーがパスワードを変更したか、プラットフォーム側が不正利用を検知した可能性があります。

※スマホでは横スクロールで閲覧できるレイアウトです。

これらアカウントも私は購入したことはありませんが、フィードバックだけはいろいろと記録していました。そこには、

「5ドルで買ったが、2週間で使えなくなった。セラーに連絡しても無視された」

「使えるには使えるが、誰かが視聴していると見られない。結局、自分のアカウントを持った方がいい」

「子供のプロフィールを作ったら、次の日に全部消されていた。共有アカウントだから仕方ない」

といった、盗人猛々しいものから、悟りを開いたようなコメントまでありました。

では、現在のアリエクにはこういったライセンスキーやアカウントの販売はありません。それはなぜでしょうか?

① IPOに向けたコンプライアンス強化

アリババグループが米国での株式上場(IPO)を目指す過程で、知的財産権侵害への対応が厳格化されたのがまずは大きいです。

② ブランドオーナーからの訴訟リスク

MicrosoftやNetflixなどの大手企業が、プラットフォームに対する訴訟を示唆するようになり、アリエク側も無視できなくなりました。

③ 中国政府の「知的財産権保護」の圧力

中国政府自体が、国際的な信用向上のために「海賊版対策」を強化し始めた頃でもあります。

ただし、これはライセンスキーとアカウントに限った話で、同じ分類の知的財産権にまつわるパチモノ商品は不思議と未だによく見かけます。

かつてのアリエクで売られていたWindowsライセンスキーやNetflixアカウントは、抜け穴があるために使用できた違法商品でした。現在ではその抜け穴も埋め立てられたので、もう販売されなくなったのかもしれません。

あの頃のことを思い出すと不思議なことがあって、NetflixやSpotifyの月々の利用料ってそんなに高くないのに、視聴できるのかどうか分かりもしないアリエクのアカウントが結構売れていたのです。売る方も売る方ですが、買う方も買う方な商品はもう見る影もなくなりました。

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