2千円のiPhoneケーブルがなぜ100円で売られているのか?100円ショップやアリエクが販売し続けるしたたかな戦略とは。

iPhoneの充電ケーブルは、少し前まで、独自の規格であるLightningが長年採用されていました。

このLightningケーブルが100円ショップで100円で売られていたのを見た時、正直、なんでこんな値段で販売ができるんだろうと思いました。それはアリエクも同じことで、200円、300円で売られていて、そのLightningケーブルはちゃんと充電ができますし、データ通信も問題なく可能でした。でも、この価格は違和感なのです。

Appleの純正ケーブルは1800円前後、サードパーティ製のちゃんとした認証品だって似たような価格帯です。それなのに、100円ショップにも、AliExpressにも、桁違いに安いケーブルが堂々と並んでいて、しかも「Appleのライセンス品ではありません」とわざわざ書いてあったりもします。

LightningはApple独自のものですから、自社製品を守るための認証制度も特許も商標も存在します。にもかかわらず、なぜこんな安物ケーブルが大っぴらに堂々と販売されているのでしょうか。Lightningケーブルがもう過去の遺物になりつつある現在、調べる必要もないと思いつつも、やたらと気になったので調べてみました。

まず、Lightningケーブルの中には、識別用の小さなICチップが仕込まれています。iPhone本体はこのチップと通信して、「正規のIDを持っているか」の確認して、初めて充電や通信を許可する仕組みで、これは、Appleが事前に仕込んだ玄関の鍵のようなものなのです。

この鍵をコピーすることは、ソフトウェアの違法コピーと同じ話っぽいからこそ、当然違法だろうと私は考えるのですが、その常識は間違っていないはず。ところが、法律の専門家による解説を読むと、話はそう単純ではないのです。

この識別チップの中身は、結局のところ「ID番号」でしかなく、そのID番号そのものには創作性が認められないため、著作物とは言えない。結果、コピーしても著作権侵害を争うのは難しいという、なんともよく分からず、はっきりしない原理があるとのこと。

Appleがわざわざ内部に仕込んだ鍵は、特許も商標もあるのに、法律的に守られた鍵ではないという、かなり不思議で皮肉な話なのです。

そしてもう一つの壁が、コネクタの形そのものへの特許でして、Lightningは、裏表を気にせず挿せる、いわゆるリバーシブル構造になっています。Appleはこの構造についてちゃんと特許を取っているので、同じ設計で作って売ろうとすれば、本来はAppleにライセンス料を払わなければなりません。

ここで日本の100円ショップが編み出したと思われる発想が、「リバーシブルであることを諦める」です。充電する際に裏と表を確認し、チップが付いてある側を上にしないと充電ができない100円ショップ仕様のアレは、決して手抜きではなく、リバーシブルを止めることで、その特許を回避しているという、いかにも日本企業的な手法なのです。

ただ、アリエクユーザーでLightningケーブルを買ったことがあるのなら、両面がちゃんと使えるし、データ通信も問題なく使えることを知っています。100円ショップのようなトンチを利かせた回避方法ではなく、大胆不敵にもそのままの形で安価に販売しているので、これは特許侵害ではないか、あちらの国のことですし。でもこれは、実際には黒とは言えない、かといってグレーとも言えない微妙な立ち位置の商品なのです。

まず、外見上はリバーシブルに見えても、内部の端子の構造や実装が、Appleの特許請求の範囲とは微妙に異なっている可能性があるのです。特許というのは「リバーシブルという発想そのもの」を守っているわけではなく、「特定の構造の書き方」を守っているものなので、似ているようでいても実は、権利の範囲外の話になっており、訴訟にまで持っていくのはなかなか難しいとのこと。

それと、認証チップは、Apple純正チップを使うのではなく、別のチップで再現している場合、チップの実装のさせ方次第によっては、これも訴訟はなかなか難しいとのこと。

日本の100円ショップはあえて不便を受け入れることで、確実に特許の外に出るという堅実な戦略だったのに対し、AliExpressで主流の両面ケーブルは、便利さを手放さないまま、権利範囲の解釈や、執行の限界に賭けた、もう一段リスクを取った戦略なのです。

なによりも、Appleの特許を持っていることと、その特許を根拠に、国境をまたいで小口で流通する無数の商品を一つひとつ訴えていくことは、まったくの別作業になります。訴訟を起こすにも侵害の立証にも、当然コストがかかるわけで、200円のケーブルを1本売られるたびに権利行使をしていたら、莫大な裁判費用が掛かります。

だからこそ、「侵害しているかもしれないが、実際に止められることはめったにない」という状態のまま、両面仕様のLightningケーブルはAliExpressの検索結果に大量に並び続けているのだと私は考えます。

もちろん、Appleだって黙って見ていたわけではないはずで、ロゴを無断で使ったり、純正品のように見せかけたりする、あからさまな偽装表示については、商標権者として税関に情報を登録したりもしているでしょう。

しかし、この制度が実際に機能するのは、権利侵害がある程度明確な商品に対してです。片面仕様だったり、両面仕様でも権利範囲の解釈が微妙な商品は権利が明確でないからこそ、ごく普通に流通してしまう。この網の粗さこそが、100円ショップでもアリエクでも、Lightningケーブルが安価にいつまでも購入できる理由のような気がします。

iPhone 15以降、Lightningは採用されなくなり、もはや過去の遺物となりつつあります。

そんなLightningが権利侵害か否かなんて、10年以上前のiPhone5の頃にやるようなネタなのですが、USB-Cの時代になった今だからこそ、そういうことがあったと記しておきたくなりました。

アリエクは、コピーだパチモノだと常々書いていますが、黒に近いながらも合法的に販売されているものも存在しており、その代表例が身近に存在するiPhoneの充電ケーブルだったりするのです。

前回記事:iCloudロック・赤ロム・偽装バッテリー──アリエク中古iPhoneが危険すぎる理由

このブログの全記事は、こちらのアーカイブ( 全記事一覧)から、ご覧になれます。

今回の話に近いものが下にあります👇

300円イヤホンがAirPodsとして認識された理由:中国語圏で噂される“影ライン”とは 
AliExpressで300円のワイヤレスイヤホンをiPhoneに接続すると「AirPods」と表示された違和感の答えは?。その謎は、中国語圏SNSで語られる「影ライン(影线)」説から読み解きます。正規工場の夜間稼働、余剰部品、華強北の互換パーツ、高仿商品の構造まで、噂と産業背景の一致点を整理しながら解説する記事です。
1000円のスマホケースの裏側。アリエクのセラーは一体いくら儲けているのか?
AliExpressの安すぎるスマホケース、原価とセラーの利益は一体いくらなのか?中国語圏SNSの書き込みを基に、販売価格から手数料、紛争リスクまでを徹底試算しました。利益率10%という驚きの実態と、還付金で食いつなぐ過酷なビジネスモデルであり、加えてユーザーからの返品、返金対応の辛さを解剖します。
GearBest興亡史:「Flash Sale」の幻想と、ROM焼き終焉が招いた没落
深圳発のガジェットECサイトGearBestが世界を熱狂させ、そして静かに崩壊していった理由とは?それは、自転車操業、ストアROM、ROM焼き文化にありました。Flash Saleで誰もが熱狂するように買いあさり、ロシアサイトからストアROMをダウンロードして、ROM焼きした、あの独特の文化の視点から読み解く。
1.7万円の爆安PCに挑んだ日々。GearBestとJumperが教えてくれた「ガジェットのロマンと泥沼」
2016年頃のGearBestと、1.7万円の爆安PC「Jumper」が繰り広げた狂騒の時代は何だったのか?中華通販が花開いたのは格安ノートパソコンだった。デバイスマネージャーの黄色いビックリマーク、謎のライセンス認証、奇妙な6GBメモリ、「育てるPC」と呼ばれた泥沼の中華ガジェットのロマンと、現在地を描くエッセイ。
Amazonで買ったのに中国から届く理由──その正体はAliExpressのドロップシッピングだった
Amazonで購入した商品が中国から届くのはなぜか。実はその多くがAliExpressを仕入れ元とするドロップシッピングによるものなのです。中国発送の仕組み、セラーの利益構造、価格差の理由をわかりやすく解説し、AmazonとAliExpressの裏側を読み解きます。ドロップシッピングとはなんなのかも詳しく解説します。