バブルの余韻もすっかり収まり、イケイケだった日本の勢いがすっかりはげ落ちつつあった1990年代中盤の頃、当時の家庭用ゲームでは断トツのシェアがあったスーパーファミコンでとあるソフトが販売され、その名は『SM調教師瞳』といいました。
ただし、このソフトはアダルト的なゲームであり、それは任天堂が最も嫌うタイプのものでしたから、まともに製作することも発売することもできませんでした。
当時の任天堂のスーパーファミコンは数多くのゲームソフトが世に出てましたが、発売されていたゲームソフトの全てが任天堂のチェックを受け、暴力的や性的な要素を含むゲームは徹底的に排除されておりました。
この排除の方法はある意味簡単で、スーパーファミコンは様々な特許が取得されており、ゲームソフトの形状や差込口なども当然特許が取られているのですが、任天堂が許可しないスーパーファミコンのソフトはこういった特許の壁が立ち塞がります。
もしも強行的に製作するとなると絶対に特許に触れてしまうため、仮にゲームを販売できたとしてもすぐに販売差し止めになりますし、巨額な賠償を請求されることになります。
そこで考えられた手法が、正規に販売されたゲームソフトの内容を書き換えてしまうものでして、当時、全く売れていなかった『ジーコサッカー』というスーパーファミコンソフトを大量に買い取り、ジーコサッカーにこのアダルト的なゲームをそっくりそのまま書き込んでしまい、特許で訴えられることを回避しつつ、スーパーファミコンで遊べるソフトに仕上げて世間に売り出しました。
しかし、任天堂がダメだと言っている類のゲームがまともな流通経路で販売することなど絶対に不可能ですから、このソフトは通販や秋葉原の闇市のようなお店でひっそりと売られておりました。
また、当時のパチンコ屋さんの景品にもなっていたのを私自身が目撃しており、確か3000発=12000円くらいだったこのソフトを、景品交換で前に並んでいた中年のおっさんが嬉しそうに交換していた記憶がございます。
前振りが非常に長くなりましたが、そんな非合法なスーパーファミコンソフトが2022年のアリエクスプレスで送料を含めて4000円ほどでなぜか販売されており、もう既に誰かが購入している痕跡がございます。
著作権やら意匠権が大変厳しくなった現代において、このソフトの立ち位置を考えると、なかなか難しい問題となります。
任天堂の特許を回避するために他のゲームソフトを改ざんして非合法に製作されたものが、30年近い時を経て違法にコピーされたものがアリエクスプレスで販売されている図式はなかなか複雑怪奇な話であり、このソフトのなにが正義で、なにが悪なのかがよく分からない状態になっております。
敵の敵は味方という、実生活ではあまり実感できない慣用句がございますが、まさにその言葉がしっくりいく、90年代中盤に製作された非合法ソフトのどうでもいいお話でした。