サイコロの出目を遠隔で知ることができるグラ賽(イカサマサイコロ)が販売されていた話

遥か昔の昭和の頃の時代劇や任侠映画を見ていると、『丁半』と呼ばれるサイコロを使った賭博を行っている場面が頻繁に出てきますが、この『丁半』はツボの中に入れた二つのサイコロの出目の合計が偶数の場合には『丁』、奇数の場合には『半』と呼ばれ、そのどちらの出目になるのかを当てるギャンブルになります。

サイコロの出目が偶数になるのか、はたまた奇数になるのかは50%ずつの確率であり、短期的に見れば偶数が10回連続で出現したりすることがあったとしても、長期的に見ればどちらの目も50%の確率に集約していくので、片方の出目だけに賭け続けるだけで2回に1回は的中させることが理論上はできる単純明快なギャンブルとも言えます。

単純なゲームだからこそ『2回に1回当たるのを毎回当てることはできないか?』と考える人間が出てくるのは当然で、時代劇や任侠映画の中では、ツボの中のサイコロの出目を操ることができるイカサマサイコロ、通称『グラ賽(ぐらさい)』を使って八百長を行うシーンが見られます。

着物から片腕をさらけ出して、胸にサラシを巻いた壺振りの粋なお姉さんがサイコロをツボの中に入れるところから丁半は始まりますが、ツボの中のサイコロの出目が予め分かっているのなら100%の確率で勝てるのでどうにかして出目を知ろうと八百長を仕掛け、これが発端でいざこざが起こるのが時代劇や任侠映画の定番のワンシーンです。

このたった2つのサイコロの出目を知るためにイカサマをするのは劇中の話だけではなく、昭和の時代のアンダーグランドな賭場においても結構見られた事象だと聞きます。

例えば、サイコロに細工をして特定の出目を出す古典的なものは勿論のこと、大掛かりなものだとアパートの1階と2階の上下で借りて2階を賭場にし、壺振りがツボを置く場所を1階の天井をくりぬいて下からのぞき込むことで出目を知る、ということもあったといいます。

ひどい手口になると、毎ゲームにわたってレントゲンでツボを撮影してサイコロの出目を見破る、なんてものまであったようで、当然のように放射線技師がちゃんと撮影するわけでなく、対策が一切施されていない部屋で毎ゲームでレントゲン撮影を行うのですから、部屋中に放射線がまき散らされるのは当然で、賭場の客全員が被爆してしまったこともあったそうです。

出目を知るがために命までも懸けることになってしまうサイコロ賭博ですが、アリエクスプレスには現代的な仕組みで、見えないサイコロの出目を遠隔で知ることができるグラ賽(イカサマサイコロ)が販売されておりました。

このグラ賽は出目を手元の受信機に振動で知らせるもので、例えば、サイコロが1の目の場合だとブルッと1回だけ振動し、2の目の場合にはブルッブルッと連続で振動する、といったものになります。

先程の丁半で言うのなら、受信機を2個持って片方が3回、もう片方が5回振動したら合計8なので丁に賭けたら大儲けになる算段です。

アリエクスプレスのグラ賽は商品ページには『子供のための魔法のアクセサリーの2つの魔法のサイコロ』という、どちらかというと手品的な商品のように売られているのですが、そのお値段はサイコロ2個と受信機のセットで48000円なので、子供向けの手品用品としてはなかなか買えないお値段での販売です。

中国には大小(ダイサイ)というルーレット的なギャンブルがあって、これもツボのように見えないものの中で3個のサイコロの目を当てるものですが、このグラ賽は元々はギャンブル好きの中国人に向けて作られたように思え、大小でどんなに汚い手を使っても勝ちたい人間向けに作られた商品でなければ、サイコロ2個如きが48000円になるわけがありませんもの。

日本国内は古来より賭け事はご法度であり、現在においてサイコロを使った丁半をわざわざやられている方々はいらっしゃらないと思われますが、出目を知るためにレントゲンを使って賭場の客の健康をリスクにさらすのなら、振動で出目を知らせるサイコロの方がより健康的に思えたアリエクスプレスのグラ賽のお話でした。